ミルガウス1019について

今日はアンティーク・ロレックスに分類されるミルガウス1019のことを。

繰り言になるが、私は経年劣化して異常にヘタった時計が苦手なだけであって、アンティークロレックスが嫌いなのではない。私は便宜上その概念を使うことはあってもカテゴリーはどうでもよく、ミルガウス1019のデザインが好きであり、この時計が2014年の今はもうディスコンモデルとして何処にも売ってはおらず、アンティーク時計としてに分類されているだけのこと。従って、もしもオールニューが可能なら、私はこの時計を求めたかもしれないが、ご存じの通り1019は日ロレでのメンテナンス期間は終了しているため、それは叶わぬ夢である。アンティークロレックス1019は私にとってそういう時計である。そのことは(私にとって)大事なことなので、改めてここに書いておきたい。

Rolex-Milgauss-1019.jpg

このデザインはまったく古さを感じさせない。シンプルでいて、赤のMILGAUSSの文字と秒針の先が全体のデザインを引き立てていて、ひじょうにシックで美しい。これが2014年の今、もしミント品として手に入るなら何とすばらしいことだろう。

ここでミルガウスについて書く前に、少し寄り道をする。個人的に思うロレックスの歴史をちょっとだけ。私はロレックスというメーカーには非常に優れた3つの面があるように思える。①高い技術開発力、②卓越したイメージ戦略、③優れたデザイン。その3つについて簡単に書いておきたい。

最初にロレックスの技術開発について。ロレックスは他との技術的な差別化、あるいは優位性を高めるために、時計の持つ可能性を最大限に追求してきたメーカーであり、それは深海の水圧、気温変動や衝撃への耐性、利便性、正確さなど多岐に渡り、それぞれをシードやサブ、エクスプローラー、GMTマスター、デイトナなどのスポーツモデルそれぞれの開発のテーマとしてきたわけである。まあ私が改めて書くことでもない。

スポロレには一般人には不要な機能がとても多い。人が数千メートルの深海に潜ることはない(死んでしまう)し、例え浅瀬であっても、そこで日付は見ないだろうなどと私は常々思うが、それはユーザー目線で論じればそうであるだけで、ロレックスには深海でもきちんと日付が変わることのできる時計を開発する必要がメーカーとしてあったということだ。ありとあらゆるハードな局面においても、ゆるぎない精度と頑丈性を実現することがロレックスの開発の歴史だった。何種かのスポーツ系ロレックスにそれぞれ違った方向性のテーマを与え、それを高めていく過程がすなわちロレックスのこれまでの歴史であり、それをほぼ極めた今の同社は雲上に舵を切ったというのが私の持論である。これが第一の技術面。

次に各モデルのイメージ戦略。潜水士、冒険家、飛行士、レーサー。これらはどれもが男が憧れる何かを体現化している。憧れながらも、それらに“成る”ことや、それらで“在る”ことの難しい職業ばかりである。それらはみな未知の領域を行く勇敢な者たちであり、時計技術の向上を、これらの憧憬イメージと重ね合わせることで、ロレックスは世界中の男たちのハートをつかんだわけで、その技術開発力、そしてそれに伴うイメージ戦略との見事なまでのマッチングにおいて、ロレックスは他の追随をまったく許していない。このイメージ戦略は他のどのブランドであろうともまったく相手になっておらず、これまではロレックスの完勝であったと私は思う。

そして3つ目。ロレックスが他のライバル企業やどんな雲上ブランドにも負けなかったのがデザインの良さ。もちろんデザインへの感性は人それぞれであり異論はあろうが、サブマリーナ、シード、エクスプローラー、GMTなどのスポロレは言うに及ばず、デイトジャストなどのドレス系も含め、ロレックスのすべてのシリーズにおけるデザインはいつの時代であろうとも秀逸であると私は思う。

技術開発力、マーケティング戦略、デザイン。この3点すべてが突出しているというより、それらの総合力の高さこそがロレックスの強みではなかったかと。


さて、ここでようやくミルガウスについて。気温や気圧(水圧)の変動や衝撃と同様に、時計にとって大敵なのが磁力。これへの耐性に挑ませたのがミルガウスというシリーズである。ちなみにミルガウス(仏語)とは1000ガウスの意味で、1000ガウスもの磁力に耐えうる時計として先々代6541は1953年(異説あり)に、次世代1019は1966年に発売された。

防磁をテーマに開発されたこのモデルの歴史をひも解いていくと、これほどロレックスの戦略が駄目駄目だった例も珍しく思える。ここまでの文章はそのことに言及したくての前段であった。他のスポロレの戦略イメージはみなさんご存じの5桁までの冊子がそれを表している。

booklet explorer   booklet sub

面倒なのでいちいち掲載しないが、GMTはパイロット、デイトナはレーシングカー、ヨットマスターはヨットレースと、非常にわかりやすい写真で、それぞれのコンセプトを表している。今はただのグリーンの冊子になってしまって少々味気ないが、過去のイメージ戦略はもうその役割を終えたということだろう。


では先代までのミルガウスの冊子の表紙はどのようなものであったか。あまり目にする機会がないと思うし、私もこれまでは知らなかったが下記がそれである。

milgauss 1019 booklet t2

いわゆるレントゲン技師や技術者である。地味で暗い。何もかき立てられるもののない、何と言うか人を黙らせてしまう、陰鬱と言ってもよい暗さが漂う。だいたい向こうからやってくるぼけてぶれている心霊写真のような男性に何か意味があるのだろうか。防磁というのもロレックスにとっては克服したい大事なテーマだったのはわかるし、20世紀の発展は世界中の科学者たちが支えてきたと言っても過言ではないが、このイメージから男の空想的ロマンを見い出すことはたいへん困難である。いくら何でもこの絵図はないだろうと。ちなみにこの写真は素粒子物理学研究所であるジュネーブの欧州合同原子核研究機構。

もちろんそれだけが理由ではないだろうが、このイメージに縛られていた現役時代には徹底的に不人気であったミルガウスが、ディスコンとなってその暗いイメージから解き放たれた途端に、一気にプレミア化したのは事実である。そして不人気ゆえ生産数が極めて少なかったことが、異常なまでの価格高騰につながり、バブル期には先々代の6541は1,500万円、先代の1019も500万円近い価格になった。ちなみにこの冊子も高い。海外では4~5万円で取引されている。たかだか冊子の価格で国産のクォーツが買えてしまう。

下記が最初のミルガウス6541。これはまずお目にかかることの出来ない激レアモデルで、個人的にはまったく欲しいとは思わないデザインだが、50年代のロレックスのイメージをよく伝えている。先ほど書いたように、とにかく生産数は極少。写真は海外から借りた。

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現行モデルでお馴染みの稲妻針である。今このモデルを入手するのは極めて困難で、先日も珍しくヤフオクで出品されたら一気に700万円まで上がった(結局出品者により取り消された)。個人的には特に魅かれるところはない。現行のミルガウスはこの先々代6541の稲妻針を復活させたのだが、ロレックスという会社にはちょっと安易なところがあり、中古で稀少性が出て高騰するとすぐに現行に取り入れるところがあり、この稲妻針やエクワンのブラックアウトも同じかと。

実は6541にはまったく違うデザインがいくつかあり、稲妻針のないものもあってそれがこれ。

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1966年に次世代モデル1019が登場する。1966年から1989年までの長きに渡って現役だったわりに前モデル同様不人気で生産数が極少数だったため、このモデルもディスコン以降超絶なお値段になってしまったのである。

rolex-milgauss black


このデザインは秀逸である。非常に端正でロレックスのドレス系に近いイメージ。3針デイト表示無し。稲妻針はないが、秒針の先端と文字盤のMILGAUSS表記の赤、これが無条件に恰好いい。ケース径約37mm。ブレスは7836(0)。キャリバーは1580。ドーム型風防。裏蓋の中に防磁用の金属蓋が埋め込まれ、それを支える十字プレートが特長。

金属プレート

90年代には程度のいい中古やデッドストックが500万越えで取引されたというから、30万円ぐらいで入手した人はさぞウハウハだったことだろうし、逆にそれまでの状況を鑑みて発売直後の現行を高値でつかんだ人はギャフン(古い!)だったに違いない。

前期モデルはハック機能なしで、文字盤はシルバーの縦ライン。人気の黒は後から出てきたようである。さらに初期の一部には秒表示が0.2秒ごと、つまり10秒に50の刻みがあるレイルダイヤルというのが存在する。

rail dial 1019



最終シリアルはRだから1988年頃に生産中止。R品番でオリジナルかつギャラ付きだと軽く5万ドル(500万円)超えだと海外サイトに書いてある。1988年といえば、私は25才。当時の私に借金してでも10個ぐらい買っておけと言いたい気持ちである。現在は希少とはいえ、金さえ出せば入手可能な時計で、イルソーレではその最終シリアル&ギャラ付きが300万円台、他では宝石広場、クォーク、ロデオドライブで200万円台半ば。日ロレでのOH受付はすでに終了。

約20年の時を経て、2007年にミルガウスは復活、発売当初は高騰したものの、今はもうすっかり落ち着いており、どちらかと言えば地味なモデルであるというのは、ミルガウスの宿命なのかもしれない。

もし、このシリーズのイメージがまったく違うものだったらどうだろうかと考える。技師や科学者ではなく、例えばジャズやロックのギタリストとか。ギターのピックアップの部分も強烈な電磁波を発生させる箇所であり、例えば当時は若きエリック・クラプトン(実際に彼はロレ好きである)あたりをイメージで使っていれば、また違っていたのではないかなどど妄想する。

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