ロレックスのアンダーバー

私は1963年生まれである。気持ちは若いつもりだが、客観的事実としてはいい年である。その1963年というのは「こんにちは赤ちゃん」という歌が流行り、翌年に東京オリンピックと新幹線開通を控えた日本がアゲアゲだった時代。当然乳児の記憶はないので、物心がついてからの世界で言うならば、漫画や映画の『20世紀少年』で主人公のケンジやオッチョが少年だったのとほぼ同時代、ああ、いやいや、そんなことを書きたいのではなく、今日は誰もが一度は憧れるバースイヤーのロレックスについて。

私もご多聞に漏れず、バースイヤーのロレックスをずっと欲しいと思ってきたが、いかんせん私と同じで歳月が経っているためになかなか良い個体に恵まれず、たまに見つけても200万オーバーで手が出ない。そもそも古い時計が何年製であるかを確定させるのは、実は結構難しく、ある程度はシリアルと裏蓋で判断していくしかないのだが、私の生年の前後については、実にわかりやすいある指標がある。それがアンダーバーである。

アンダーバーというのは、サブにもエクスプローラーⅠにもデイトナにも、いやほぼすべてのロレックスに見受けられる、文字盤上の謎の一本線で、これはチュードルの薔薇サブにもある。そのアンダーバーは1960年の頭からの数年に製造された時計にしか存在ない。シリアルでいうと、6桁の8頭から9にかけてが多く、稀に7桁の1頭にもある。その位置は2種あり、上部のROLEXロゴの下のOYSTER PERPETUALの真下と、下部の2ないし3行(サブだと、OFFICIALLY CERTIFIED)の真下のどちらか。古いエアキングで、下部に何の文字表記もなく、ただ一本このラインが引かれている個体も見たことがある。

underline5513.jpg
<chrono24から写真を拝借>

そのラインが何を意味するかは諸説あってはっきりしないが、おそらくは危険物質を含有するラジウムからトリチウムへの夜行塗料の移行が関係しているのではないかと思われる。1960年代の初めまで、インデックスの針に塗布されていたのはラジウムで、文字盤の下部にはSWISSとだけ記されている。1964年前後からトリチウムを意味する“SWISS-T>25”へと変わる。

閑話休題。ラジウム文字盤は希少ではあるものの、ラジウム226Raの放射線の半減期は1600年と長く、いまだに発光する。20世紀前半の時計工場ではラジウムを塗布していた女性従業員さんたちが被爆して多くが亡くなっているが、これは筆先を尖らせるために舐めながら作業をしていたという。不幸な歴史である。

アンダーバーに戻る。推測されるのは、塗料をラジウムから基準値以下のトリチウムに変えた際に、まだ余っていたSWISS表記の文字盤を使い、そこに「これはラジウムではなくトリチウムを使っている」ことを表すためにラインを引いたのではないかという説を私は採っている。ダイヤルは金文字でもアンダーバーはシルバーであることが多いこともそれで説明が付く。ただ、その説に当てはまらない個体もあって、トリチウム表記なのに、どうもラジウムを使っているらしい個体もあり、はっきりとしたことはよくわからないということははっきりと書いておく。そもそもラインが上にあったり下にあったりする理由も意味もわかっていない。では、このアンダーラインは希少なものとして今の価格に反映されているかというと、それもない。ないないづくしで、在るのは、ただ一本の線だけ。シュッと。ある意味すごくシュールである。

このアンダーラインは不思議と私のバースイヤーである1963年製(シリアル9頭)に集中しているため、私は古い時計に出会うと無意識に一本の線を探してしまう癖がついた。

ついでに書くと、極まれにダブルスイスというのもある。このあたりになるとさらに訳がわからない。文字盤の最下部にSWISSがふたつ表記されている(下の金色のSWISSは小さくて見づらい)。写真の個体でも、アンダーラインと大きい方のSWISSだけがシルバーで他の文字はすべて金だということがわかってもらえると思う。おそらくは後から印字しており、夜行はトリチウムだと推測。これは本来印字する必要はないのに間違ってやってしまったとしか思えない。若い技術のアンちゃんはきっと終業後にデートの約束でもあって、気もそぞろだったのだろう。「あっ、やっちゃいました!」。「あ~ん?いいよ、いいよ、わかりゃしねえよ(by 上司)」。どこの会社でも見受けられる光景である(ない、ない)。

underline doubleswiss1675
<chrono24から写真を拝借>

と、そんなことを書きながら、私は大してそれらに興味があるわけではなく、まあそういうのもあるよということで今回はお終い。いつかは状態の良いバースイヤーのスポロレが欲しいのだということは書いておく。昨年末、知り合いが所有する60年代前半のサブマリーナ5513を手に取らせてもらったのだが、それはもうため息が出るすばらしさ。ミラーダイヤルに金文字、すでに完成されたデザイン、造りの精巧さ、丁寧な職人の手作り感…。60年代初期はロレックスの黄金期だったのだと改めて思わずにはいられない。
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