チュードルのサブマリーナについて その2

前回紹介した79090と79190は発売から20年前後経っているとはいえ、ヴィンテージと呼ぶにはまだ新しいのだが、その前のモデルとなるとグッとヴィンテージ感が増してくる。

前回とは違い、5,60年代の薔薇サブから80年代へと綴っていくこととする。

チュードルはイギリスはチューダー王家の紋章である薔薇をメインロゴに起用、ロレックスのデフュージョン(廉価)ブランドとしてスタートした。チュードルのサブマリーナが登場するのは1954年の7922から。キャリバーは390、クラウンガード無しの100m防水。「ROTOR SELF-WINDING」等の文字盤表記、薔薇のロゴを除いては、ベンツ針に丸い秒針とロレックスのサブマリーナにそっくりな外面デザインである。ガワはすべてロレックス製でムーブのみ汎用のETA製を採用。つまり外見はロレックス、中身は別物というのがチュードルの立ち位置。

チュードルサブマリーナは7923, 7924, 7925とマイナーチェンジを繰り返してゆく。ストレート針の採用や防水の進化などあったが、興味がある人も少ないだろうから省略。1959年には7928が。これはクラウンガードで、同年発表されたロレックス5512と同じデザインコンセプトである。このようにロレックスとチュードルという兄弟は同じように進化していったことがわかる。何度も書くが、大きな違いは肝心のムーブがロレックスは自社開発、チュードルは汎用品。1950年代というのは、第二次世界大戦が終わって10余年、新興国が続々と独立を果たし、ヨーロッパが凋落し始め、アメリカ合衆国が台頭した時代。混沌としていたその時代にロレックスやチュードルというブランドがそれぞれどのような層に支持され、どういう比率だったのかは、生まれてもいない私にわかるはずもない。

この7928は同じ品番のまま途中からいくつかのマイナーチェンジをおこなう。やはりロレサブと同じようにPCG(いわゆる尖がり竜頭クラウンガード)から普通のクラウンガードとなり、またレターもゴールドからシルバーへ、文字盤サークルがなくなるなど。色々な捉え方はあると思うが、この1959年から1967年まで製造されたチュードル7928がロレックスの5512や5513の位置づけと考えて良いと思う。後期の文字盤はシルバーからホワイトへと変わる。
tudor7928.jpg


次世代へ。日付無しが7016(cal.2843)。日付有りが7021(cal.2484)。登場は1969年。薔薇のロゴから盾のロゴへ。そしてようやくハンズのイカがここで登場する(ベンツ針も有り)。そのインデックスはスクエア(長方形)。さらに、ここで青サブが登場し、ある意味、ロレックスとは違う個性を持ったブランドとしての別の道を歩み始めることとなる。この日付有り無しの両モデルはとにかく絶対数が少なく、その中でも状態の良い物を探すとなると至難であり、かつ溢れかえるパチ物との闘いとなる。ヤフオクあたりのブツはまあ外見(そとみ)で判別可能だが、本格的なfake品だと裏蓋を開けてもそれらしきムーブが載っており、相当な目利きでないと本物を見極めることは困難であるという。

ちなみに私は日付無しの7016を、かつて苦労してそれなりの値段で入手し今も所有しているが、これが本物かどうかの確証は無い。そのことについては別稿に譲るが、私はもう「知らぬが仏」で良いと思って使い倒している。ブレスを外して刻印も確認したし、裏蓋を外してムーブも確認、どこにも偽物の気配はないが、それでもはっきりとはわからない。困難な巻きブレスの駒詰めも自分でおこない、ベゼルインサートは社外品の青に付け替えた。いずれはきちんとした工房で見てもらおうとは考えているが当分はもうこのままで良い。これは愛する女性の浮気を疑う男の心理に等しく、なかなかに苦しいもので(苦笑)、まあ古いチュードルを愛する者は等しくその疑念と愛欲に苦しむであろう。

さて、その次世代登場は70年代の半ば。日付無しは94010(cal.2776)、日付有りは94110(cal.2783/2784)。ブレスは巻きの9315又は7836でともにダブルフリップロック。これらもまた市場には滅多に出て来ないが、ヤフオクには偽物が溢れかえっている有り様。ヤフオクはyahoo社が偽物を取り締まる強い意志を持たないゆえに、今はパチの宝庫、バッタもん繁殖の温床と化している。ヤフオクは本当にヤバい。私も痛い目に合った。これについてもまたどこかで記事にする。

この日付有り無しの94010 / 94110 はイカサブ最後のモデルで後期にはベンツ針も登場し、やがては76100へと受け継がれていくが今日は割愛。というのも真面目にチューサブについて書くにはあまりにもバリエーションが多すぎて筆が追いつかないからだ。ミニサブ、ボーイズサブ、タコサブ、同品番におけるキャリバーの変更、レフトハンドモデルなどなど。ただ、今こうやって歴史を見ていくと、ロレックス社がマーケットを拡大していくために、ロレックスブランドでは出来ないことを、この弟分を使ってトライし続けたことがよくわかる。チャレンジングなブランドと言ってもよい。そしてその棲み分けには苦労が伺える。例えば、チュードルではステンレス製の青サブを開発したが、ロレックスでは金無垢とコンビのみという事実からもわかる。そもそもチュードルのスポーツ系では金無垢モデルは存在しないし、素材も間違いなく使い分けている。素材における差別化だけではなく、ハイスペックな防水や防磁の追及(シード・ミルガウス)、クロノグラフモデルにおける自社ムーブの開発(デイトナ116520)など、時計メーカーとしてのクォリティーアップは徹底的にロレックスブランドでおこない、最も金のかかるムーブを汎用でまかなうことでチュードルはその安価ブランドとしてデザインのバリエーションを広げていったとも言える。

個人的には日付無しドーム風防の94010がお奨め。黒、青どちらも良い。下記に写真を載せておく。
左が94010、右が94110。
94010-7 - コピー94110-8 - コピー


ここでフランス海軍モデルについて書く。marine nationale。前モデルの7016からフランス海軍がチュードルのイカサブを採用、その証として上蓋にM.N.(年号下二ケタ)が刻印される。ブレスは無く本体のみ(ここ大事)。さらに海軍が採用したのは日付無しモデル(7016 & 94010)のみ。仏海軍採用は後継の94010で本格化し、それは1982年まで続いた。これにはdecommissioning papersと呼ばれる書類がついており、さらには支給品のすべてのシリアルが台帳に記載されている。本物の相場は250万円から300万円ぐらいで世界的にコレクター垂涎のブツ。滅多に市場に出て来ないが、またまた偽物はよく出てくる。まず前記の書類が無く、付いていてもブランク(空白)の書類であると真偽は疑わしい。ここで言うフランス海軍支給品(MN刻印)の偽物にはふた通りあって、時計は本物のチュードルだが裏蓋の刻印は後付けのものと、時計も証明書もすべてフェイク品の2種。私は絶対本物だという確信が持てるMNと出会えたら、持っている時計を売り払ってでも手に入れてやろうという野心がつい最近まではあった。今は無い。
mn77.jpg


チュードルというモデルは誰が仕掛けたか、とにかくパチ物が溢れ、大多数のそれらの中をかい潜って本物を見極めていかねばならず、やっかいではありつつも、それがまた楽しいモデルでもある。私のパソコンのピクチャホルダーには、正しい文字盤とムーブの写真が数え切れないほど収めてあって、それなりに眼力は付けたつもりだが、それでも限界はある。

余りいないと思うがチュードル・サブマリーナを購入する際の注意点。まず文字盤が汚く、特にデカいブツブツが出てしまっている個体が多いのだが、悲しいことにそっちの方が本物又はオリジナルである可能性は格段に高い。ロレックス社は差別化としてチュードルの素材は安価なものを使い(多分)、気密性にも難があり、とにかくサビと文字盤の痛みが激しいものが多いのである。おそらく文字盤の塗料にも問題があったのか紫外線にも弱い。従って、きれいなチュードル・サブマリーナは後年にサービス文字盤(純正の交換用文字盤)に換えられている可能性大。更に追い打ちをかけるようだが、イカ針は塗料の面積が広いだけに、ここのトリチウムが剥げやすく、酷いのになるとゴッソリと塗料が抜け落ちてしまっている。いや現状はOKでも使い続けると塗料にひびや剥げが発生する可能性がある。ゆえに、私は真夏には古いチュードルは絶対に着用しないことにしているのだが、一応これは潜水時計であるということは書いておく。まったくやっかいな時計である。

本当はもっと書く予定だったが、書いている内に疲れて嫌になってきたので、この辺にしておく。チュードルについては情報が少なく、誤った記載もあるかもしれないがご容赦を。そして、この最後の段まで来て、私は大切なことを書くのを忘れていたことに気付いた。これを書いておかないと。「私はチュードルというモデルが好きである」。いや実際のところかなり好きである。ロレックスの弟分として生まれ、安価な値を付けられ、ロレ好きからは下に見られ(半ば馬鹿にされ)、パチに苦しみ、日本ではイカだタコだと呼ばれ、それでも自分の個性を出そうとしたこのモデルは実に愛すべきモデルだと思っている。何と言っても、海外ではスノーフレイク(雪の欠片)と呼ばれるイカサブのデザインは、数あるヴィンテージ時計の中で私が最も愛するものである。老眼にもバッチリ。説得力は無いかもしれないが、本当に実に愛すべきモデルなのだ。出来るイケメンの兄と地味であばた面の弟。それは太陽と月なのか、はたまた光と影か。さて、あなたはどちらを愛するであろうか。そしてあなた自身はどちらであろうか。チュードルに栄れあれかし。
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