道具の奴隷となるなかれ

予告したのになかなか記事をアップできずに誠に申し訳ないと思い、とり急ぎ今日はオメガ・スピードマスターについて。今後の射程に入れてもいいかなと思う人向けの記事であり、深い知識をお持ちの御仁には無用な記事であることをまず書いておく。

speedmaster 1back case straight


写真は自己所有の145.0022。いわゆるスピードマスター5thの最初期。1969年製造で、ご覧のように裏蓋に特別な表記がある。omega speed master straight writing というもので、ややレアなモデル。これはある伝手でフランス在住の御年70になるご老人(米国人)から譲ってもらった。1972年に新品購入して、1979年にサブ5513を買うまでのたった7年間しか使っていないというワンオーナー、フルオリジナル品である。ケースは傷だらけであり、プラ風防に大きな欠けがある。そこがまたいい。

私はここ1ヵ月というもの、この時計しか腕には巻いておらず、手巻きであるから毎日決まった時間、14時にジーコジーコと手で巻いている。使った感想としては、もう最高である。サイコー。それまでのロレ熱39度が微熱の37.5度に下がったほど。私はこの時計をこよなく愛し、帰宅してこれを外すたびに、決して大げさではなくため息をつく。格好いいなあ~、おい!、と。だが、この時計のどこがどういいのかを文才のない私が文章にするのはとても難しい。

今、それに挑み、30行ぐらいの分量を書いた文章をあっさりと削除した。やはりうまく書くことはできない。要するにカタルシスなのだ。浄化ともいう。この時計を所有することによって、私はようやくにして本当に時計を愛することが出来たとすら思っている。虚飾の向こうに突き抜けた思い。それ以上の言葉を今の私は持ちえない。誠に申し訳ない。

スピードマスターの基本は手巻きである。もちろん自動巻きもあり、何を選ぶかは当人の自由だが、スピマスの基本は手巻きである。スピマスには数えきれない種類のモデルがあるのだが、大まかに書けば文字盤にprofessional の記載があれば手巻き、automatic とあれば自動巻きだ。最初にスタンダードな手巻きを買うなら、3570.50 という数字を書き記しておく。まず間違いはない。そして念のために書いておくと、残念ながら私が経営しているショップに在庫はない。

大事なポイント。クロノ針がずれている個体が多い。だが、これはOHで直るので、あまり神経質になり過ぎなくてもよい。傷も似合う時計なので、私はそれもあまり気にしない。ブレスの伸びについても汎用ブレスに代えればよいし、上の写真のようにNATO ベルトという手もある。デッドストックで置いておく必要もない。どうせリセールは大したことはない。また、この時計には最終品番という概念もない。オメガは、オメガという会社が存続する間、ずっとこの同じデザインのスピマスを馬鹿正直に作り続けるはず。たぶん半永久的に。購入価格(30万円前後)に比べてOH代(8万円ほど)が高いので、壊れたら買い替えるのも手だ。そう、使い倒せば良い。つまり、細かいことを気にするなとこの時計は強いメッセージを発している。

ロレックスをはめた左腕を郵便ポストや自販機に突っ込むには躊躇したものだが、この時計はそういうことから我々を解放してくれる。たかが、時計に付く小傷。それは値段が違うからだと主張する人もいるかもしれないが、私はこの時計に80万円を払っており、私の中では成り立たない理屈である。ただの時計であり、ただの道具なのだ。道具ごときの奴隷になるなかれ。ギャラも要らない。古い時計のギャランティーなどは保証期間の過ぎたただの紙やプラカードだということに気づかせてくれる。

もちろん同じオメガでも、100万円を超えるイタリア限定とかを所有すると(もちろん所有していないが)、たちまち私もまた自販機には時計をはめていない右手を突っ込むのだろう。情けないがそう思う。こう書いていくと、自分が(個人の時計好きとして)、いかに時計のリセールに縛られていたかということを思い知る。つまりは損得勘定である。私たちは本当に時計が好きなのであろうか。少なくとも私にとってはそういうことを考えるきっかけとなった。マンズ・マンズ・ウォッチ。男の中の男の時計。この武骨な時計を腕に巻きながら、私は当分の間、そのことを考え続けるだろう。自分よ、オマエは本当に時計が好きなのか?

こういう時計を売りたいものである。不要な方はぜひ当店へ。だが買取りは安いぞ(笑)。あー、いやいや、ウソウソ、がんばる。ロレックスもいい。だが、他のブランドにも色々な価値がある。広げていくと、多分この趣味はもっと楽しくなる。そう思う。

追記:4月は忙しくて1日、しかもたった10分しか店に顔を出せなかったのだが、4月5日にオープン半年を迎えた。時計好きの人たちにとって、ちょっと気になる店という立ち位置を目指してこれからも地道に背伸びせずやっていく所存である。買っていただいた方、売っていただいた方、委託に出していただいた方、その他多くの方々に感謝である。ありがとうございました。

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